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適当に書き散らしたものを纏めてます。

   
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最初の事件・・・名?探偵カルリ誕生!(中編・2)
 【5】
静まり返った『東学生寮13号館1階ホール』の隅にて、なにやらこそこそと会話する四人組。

言うまでも無くその四人はカルリ達であった。
 
「作戦のふくしょー? をします!」
「作戦名『引き出しの謎を解け!』内容は~……」
「強行……いいんですか、カルリ?」
「上手くいけばこれで犯人がわかるかもしれないんデス、多少の無茶は覚悟の上ですヨ。……でもミーティアサマは待っててくださいネ。さくっと終わらせてお買い物に行きましょう」
「三人とも……本当に気をつけてくださいね……?」
「うん! 安心してよおねえちゃん!」
「あたしとカルリの黄金コンビにかかれば誰であろうとちょちょいのちょいで~」
「じゃ、行って来ますネ」
 
三人は悪人を捕らえる騎士のような気持ちらしく、好奇心たっぷりの笑みを浮かべ管理人室の扉へと近づいていく。
ミーティアはそれを見守るしかなかった。
奇妙な噂で出てきたスキュラーズの机の引き出し。
買い物で一度寮を出るのだしついでにその謎を探ろう、という話の流れになり、今のような状況が出来上がってしまっていたのだった。
素早く二度ノックして、返事も待たずに一気に扉を開けて雪崩れ込む三人を見て、ミーティアは小さくため息をついた。

――ますますスフィン先生が不利な状況ですね……。
 
過去の三人の被害者はピリナの言ったとおり全員この13号館に住んでおり、話を聞くのは酷く簡単だった。
訪問したときは誰もがそんな事があったと感じさせないほど自然に振舞っていたが、いざ事件について聞かれると、三人はそれぞれ別の反応を示した。
もう過ぎた事だし、気にするだけ毒だからと諦めたように笑う者。
未だに我慢ならぬと怒気を孕んだ口調で語るもの。
“怖い”と泣き出す者。
この泣き出してしまった被害者はラティベルの顔見知りで、より一層彼女が心を燃やしたのも記憶に新しい。

――間違いのはずです……そんな事、絶対に。

彼女達被害者の間で共通していたのは“合鍵を作っていない”という事実だった。
全員があるはずの無い鍵によって深く心を傷つけられた事が調査で判明したこともあり、こんな強引な捜査へと繋がったのである。
 
【6】
「や、やぁ。……随分慌ててるみたいだけど、どうしました?」
 
突然雪崩れ込んできた三人を、スキュラーズは苦笑しながら出迎えていた。
手には湯気の立ち昇る白いカップ。
部屋の中に広がる香りからして中身はコーヒーで、少なくともカルリ達が雪崩れ込むまでのんびりと寛いでいたらしいことがわかる。
愛想笑いを浮かべつつ、カルリは話を切り出した。
 
「こんにちはスフィンセンセ。実はペンをお借りしたいのですヨ。……というわけで」
「えっ? あっ、ちょっまって!?」
 
言うが早いか机に早足で向かうカルリを、スキュラーズは慌てて引き止めようとする。
 
「と~せんぼ~」
「通さないよ!」
 
しかしピリナとラティベルが行く手を遮る
スキュラーズは戸惑いの表情を隠そうともしない。
 
「スターレンテ君! に、えっと君は……」
「ピリナ・ライリークです~。何度か新聞部として許可をいただいた事がありますね。その節はありがとうございました~」
「そうか、あの新聞部の。いえ、こちらこそ。いつも壁新聞楽しく読ませてもらってるよ。ライリーク君だねよろし……って今はそんな場合じゃない!? ハ、ハーティポット君ちょっと待って!? ペン! ペンならここに!」
「いやぁ、アタシの本能が『この机に眠るペンが欲しい!』 って叫んでるんですヨ、センセ♪」
「いや意味わかんないっ!? あっ、と、通してくれよ二人とも!」
「だめ~」
「何か秘密があるんだね先生!? ボク、信じてたのに……」
「何を!? 何が!? 信じるって!?」 
 
落ち着いた丁寧な態度は消えうせ、歳相応の若者といった言葉遣いになっているスキュラーズ。
立ちふさがる二人に邪魔されてしまい、カルリのもとへ辿り着くことはできない。
 
「それじゃ、お借りしますネ」
「ま、待ってくれ! 頼むからそこはっ! そこだけは!」
 
そんな様子を眺めつつ、カルリは悠々と引き出しの取っ手に指をかけ――。
 
「オープンー♪」
「あぁぁぁぁっ!?」
 
 勢いよく開いたのだった。
 
「……ン?」
「カルリ~?」
「先輩?」
 
引き出しの中には、カルリが思っているような品は一つもなかった。
ただ、上質な素材でできた、古い机の中に入っている品としては不釣合いな小箱だけが目に付く。
 
「……これは……」
 
小箱は簡単に開いた。
その中には眩い輝きを放つ小さな小さな品が入っていた。
 
「……指輪ですネ?」
「……はぁ……」
 
スキュラーズは小箱の中身を見るカルリの姿を見て、肩を落としてしまう。
その時扉が開いた。
慌てて中に入って来たのは、ミーティアだった。
スキュラーズの悲痛な声を聞きつけ、居てもたっても居られなくなったのだろう。
 
「貴方達……」
「あ、ミーティアサマ。スフィン先生はとりあえず白かもしれませんヨ。よかったですネ!」
「やっぱり犯人は別にいそうだね~」
「よかった。だってスフィン先生だもんね! 犯人なわけないって!」
 
駆けつけてきたミーティアに満面の笑みを向ける三人。
明らかに落ち込んでいるスキュラーズと、三人を交互に眺めて、ミーティアは小さくため息をついた。
 
「……とりあえず、喜ぶのは後にしてください。スフィン先生。……スフィン先生?」
「……っ!? あぁぁぁそれ返してくれっ!!!」
「あ、ハイ」
 
ミーティアの声で我に帰ったスキュラーズは、道を開けたラティベルとピリナの間を駆け抜けて、カルリの差し出した手から小箱を奪い取り大事そうにそれを握り締めた。
暫くして、四人を見回しながら呟く。
 
「ひ、酷いよ君達……」
「本当にごめんなさい……」
「ごめんなさーい……」
「ゴメンデス」
「やりすぎました~」
 
若干涙目のスキュラーズ。
猫の耳は伏せられ尻尾も思い切り垂れ下がってしまっている。
 
「突然来てこんなこと……じ、事情を説明してもらうよ!?」
「はい……全てお話します」
 
今この部屋に居る中では最年長であり教師であるスキュラーズだが、彼の泣き顔はなんとも情けなく、そして同情を誘うものだった。
 
【7】
「そんなことが……!?」
 
カルリ達に事情を説明してもらったスキュラーズは、驚愕の表情を浮かべていた。
そんなことがこの寮で起こっていることなど、夢にも思わなかったのだろう。
 
「実はアタシ達、その事件について調査していたんデス」
「この寮の部屋の鍵全てを持ってるのはスフィン先生だけですから……それで」
「丁度引き出しに何か隠してるって噂もあって、こういう手段をとってしまったんです」
「ごめんなさいスフィン先生……」
 
先ほどから四人は何度も頭を下げていた。
まるで違ったとはいえ、何かスキュラーズの大事な秘密を暴いて知ってしまったのは事実だからだ。
しかしスキュラーズは申し訳無さそうな表情をして、四人に頭を上げるよう何度も促す。
 
「い、いや。そういうことなら仕方ないし……僕が考えても真っ先に僕のような立場の人間を疑うよ。もう済んだことだし、気にしないでくれ。……で、でもあの指輪のことは絶対に話さないで欲しい……頼むから」
「あの指輪、なんなんデス?」
「実は、その……」
 
スキュラーズの顔がたちまち熟れた林檎のように真っ赤になった。
もじもじと落ち着かない彼のその仕草は、何故だか母性本能を擽られるようなもの。
 
「……プロポーズ、するんだ。今週の太陽の日に」
「エ、マジデスか!」
「お~」
「それは……おめでとうございます」
「ねぇねぇ誰にプロポーズ!?」
 
プロポーズと聞いて乙女である四人が興味を持つのは当然だった。
ミーティアでさえ好奇心に満ちた瞳でじっとスキュラーズを見つめている。
喋らなければいけないような空気が一瞬で形成されてしまい、スキュラーズは苦笑し小箱を撫で回しながら、小声で喋り始めた。
 
「な、内緒で頼むよ? ……『満月亭』ってレストランで働いてる見習いシェフの子なんだ。幼馴染でね……」
「へ~。長年付き合ってきて経験してきたあまーい甘いとろけるようなラブロマンスがいとも簡単に想像できるね~」
「生徒のみんなが知ったら大騒ぎすると思って……。でも、手元においておかないと心配だから、あの机に仕舞っていたんだ」
「『恋人にしたい男性講師ナンバー1』ですもんネ、スフィンセンセー」
「うん。それは僕も知ってるし、素直に嬉しいよ。でも、僕が愛してるのは彼女だけだから……」
「いいな~。あたしもそういうロマンティックな恋したいな~」
「大丈夫だよ、きっとできる。……みんなとても魅力的だと僕は思うよ」
「オ、舌の根が乾かぬうちに口説きにかかりますか、センセ」
「ち、違うって! そういうつもりじゃ……!」
 
ちょっとからかうだけで恥ずかしさで顔を真っ赤にして、必死に否定するスキュラーズ。
普段の彼の姿を見慣れているミーティアとラティベルにとっては、意外であり、また微笑ましい光景だった。
 
「よくわかりました。……本当に、申し訳ありませんでした」
 
再び頭を下げたミーティアに、スキュラーズはゆっくりと頭を振って見せた。
そして調子を取り戻し始めたのか、いつもの優しい笑みを浮かべながら話し始める。
 
「いや、うん。もう気にしてないよ。それにそんな事が起こったんだ……こうなったのも仕方無いよ、きっと。何か力になれることはあるかい? 僕にできることがあったら何でも言って欲しい」
 
この申し出に、カルリは人差し指を立てて答える。
 
「……じゃ、一つ聞きたい事があるんですケド」
「何だい?」
「去年の10月のことで――」
 
【8】
「スフィン先生、ありがとうございました」
「うん。力になれたかわからないけど……何かあったら何時でも訪ねてくれ」
「じゃ、お買い物行きましょうかミーティアサマ!」
「えぇ。……それではスフィン先生」
「またね!」
「ごきげんよ~」
 
スキュラーズからの聞き込みも終わり、四人は今度こそ買い物に行くため寮を後にしようとしていた。
 
「あぁ、行ってらっしゃい!」
 
スキュラーズはわざわざ四人を見送ってくれていた。
大きく手を振ってくれるサービス付き。
何度か振り返って、そのたびにラティベルが手を振り返して、のんびりとアカデミーの正門に向けてカルリたちは歩く。
 
「……カルリの勘だと、スフィンセンセーは白ですネ」
「やっぱりそう思う~?」
「スフィン先生だもん! あんなことしても全然怒らないし……」
「それはちょっと違うような気もしますが……でも、私もスフィン先生が犯人だとはやはり思えません」
 
その途中話すのは、やはり事件のこと。
ここに来てカルリも、スキュラーズが犯人ではないということを半ば確信している状態だった。
 
「言葉じゃ上手くいえないんですケド……」
「乙女の勘だね~」
「そうそう、そんなトコ。……あぁいう卑劣な犯罪を犯す変態なヤツは隠しててもカルリにはわかるんですヨ。……でも、まだやっぱり確定じゃない、というのが本音デス」
「……管理人室にある鍵を使ったという考えは除外できるでしょうか」
「スフィンセンセー以外が使った、という条件は除外しても良いとカルリは考えます。紛失事件以来スフィンセンセーは鍵の管理を徹底されてますしネ。……部外者がこっそり持ち出しなんてできませんヨ」
「ってことは~?」
「別の方向で考えるとすれば……7ヶ月前の鍵紛失事件。これがきっとポイントだとカルリは思います。それに――」
「それに?」
「ピリナ。窃盗事件の最初の発生は何時でしたっけ?」
「6ヶ月前だよ」
「鍵が花壇で見つかったのは?」
「紛失して1ヵ月後……あ」
 
言葉に出して再確認して、ピリナは気づき、驚きの表情を見せる。
ミーティアもラティベルも、彼女と同じような表情で居た。
 
「偶然ですかネ、コレ?」
 
目を細め、カルリは地面を睨みつけながら、考えを纏めているようだった。
滅多に見られない、カルリが頭をフル回転させているその光景に、他の三人は言葉を失う。
やがてピリナが嬉しそうな顔をして見せた。
 
「すごいすごい! カルリ探偵みたい!」
「そうですヨ。今はミーティアサマのために働く探偵ですからネ。……鍵紛失の話に戻りますケド、状況もなかなか興味深いところですヨ」
 
――鍵の紛失事件のこと?
――エェ。是非詳しく聞かせていただきたいのですヨ、センセ。
――あれは……居眠りだよ。僕のミスだ。
――正直に話してくださいネ。……未だに納得できてないって顔に書いてますヨ。
――え!? ……あ、いや、その。
――このことは誰にも話しません。……だから話してください、アタシ達に。
――……わかった。実は、変なんだよ。確かにお昼ご飯を食べた後は眠いよ。でもその日は特別寝不足でもなかったし、講義も控えていた。とても居眠りなんてできるわけ無い。なのに……。
――何かその日、ありましたか? 来客でもなんでもいいデス。
――特にこれといって……あ、待ってくれ。……そうだ、その日はサグ君が管理人室に訪ねて来てね。と言っても何か用があったわけじゃなかったらしくて。世間話をしていたんだ。
――サグ……?
――ニューク・サグ。今の生徒会長だよ。スターレンテ君……あぁ、ミーティア君の方だよ。君はよく知ってるはずだ。……そう、話してる最中僕が欠伸をしたんだ。それで彼が眠気覚ましに、ってコーヒーを淹れてくれたんだったかな。でもコーヒーを飲んだ後にさらに眠気が酷くなって……。気が付いたら生徒に揺り動かされていた。居眠りして講義ができなかったのに気づくのに十分ぐらい掛かったな。そのときもまだ酷く眠かったんだ。なんというか、気分最悪な目覚めだったと今でも思うよ。
 
「……ミーティアサマ。スフィンセンセーの話に出てきたニュークって人、どんな人デス?」
「会長ですか? ……少し準備を急ぎすぎることもありますけど、とても真面目な人ですよ。常にリーダーシップを発揮しているような……そんな方です」
「ヘェ……」
「確かご両親が二人ともお医者様だって話を聞いたことがあります。会長も医者を目指して勉強に励んでいるとか」
「……医者、デスか?」
「えぇ。リグナスの西大通りにある大きな病院に、会長のご両親が勤めていらっしゃるそうです。お父様のほうが院長先生……だったと思います」
「……ミーティアサマ、まさかそのニューク会長も13号館に住んでたりしませんよネ?」
「そうですよ。会長も13号館に住んでらっしゃいます。私の部屋の真下……6階の南のお部屋です」
 
スキュラーズとの会話、そしてミーティアから得たニュークの情報。
カルリは自分の頭の中である一つの仮説が急速に組み上げられていくのを感じ、薄く笑みを浮かべた。
 
「……ミーティアサマ! お買い物のあとにちょっと寄り道してもいいデス?」
「えぇ、構いませんよ。何処に行くんですか?」
「それは内緒デス。その時まではネ」
「……?」
「あ、ところでお買い物で何買いますかミーティアサマ!」
「実は特に決めていなくて……よかったらカルリの好きなものを今日の夕食にしようかと考えているんですけれど」
「ホントデスかっ!?」
「あれぇ? ミーティア先輩の晩御飯になんでカルリが関わるの~?」
「あ、ピリナおねえちゃんは知らないんだっけ。今先輩はおねえちゃんのところに泊まってるんだよ」
「え~?」
「この事件の犯人を捕まえるまで、このカルリがミーティアサマをお守りするんですヨ!」
「へ~」
 
――カルリのほうがその犯人より危ない気がするけどなぁ~……。
 
などとリピナは思うが、口には出さない。
 
「でもカルリはミーティアサマの作る料理なら何でも大好物っ……! リクエストしたくてもできないのデス!」
「それは嬉しいですけど……困りました。お買い物でかなり時間を使うかも知れません。私、凄く悩むので……」
「あたしはそ~だな~。ビーフシチューが食べたいな~」
「ボクはフライドチキン食べたい!」
「……ってあたし達がリクエストしてもしょーがないよね、ラティベルちゃん」
「……だね」
「……あ」
 
二人の言葉を聞いて何か思いついたらしい。
ミーティアは小首を可愛らしく傾げて見せながら言った。
 
「よかったら今日の夕食は皆で食べませんか?」
「え? いいんですかミーティア先輩?」
「えぇ。こうやって集まったのも何かの縁ですから」
「ボクはそれでもいいよ!」
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおっかな~」
「決まりですね。……じゃあ今日は、ビーフシチューとフライドチキン、サラダとパンでどうですか?」
「わお、豪華~」
「やったー!」
「早くも夜が待ち遠しいですネ!」
「ふふ……頑張って美味しいのを作りますね」
 
身体を一杯に使ってはしゃぐラティベル。
もう晩御飯の想像をしているのか惚けた様な表情のピリナ。
カルリとミーティアはそんな二人を見ながら、他愛も無い話に花を咲かせ始める。
賑やかな四人。
 
「………………」
 
それを物陰でじっと見つめる人影が居り、暫くしてどこかへ走り去ってしまったのだが、誰もそのことには気づかなかった。
 
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