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適当に書き散らしたものを纏めてます。

   
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最初の事件・・・名?探偵カルリ誕生!(後編・2)
  【6】
「あ、おか――。……ちょ、ミーティアサマ!?」

「お、おねえちゃん顔真っ青だよ!?」
「いえ……。大丈夫、ですから……」
 
帰ってきたミーティアのその顔が真っ青なことに気づいたカルリ達は驚いた。
扉を閉め、そのまま寄りかかったミーティアの身体から力が抜ける。
慌ててカルリがミーティアの身体を支えた。
 
「大丈夫じゃないデス! さ、早くベッドに……。ピリナ!」
「あいあいさ!」
 
カルリとピリナ、二人掛りでミーティアをベッドの中に横たわらせる。
どうやら意識もはっきりしていないようで、暫く瞳を閉じては少しだけ瞳を開ける、ということを繰り返すミーティア。
 
「ごめ……なさい……。夕食をつくらなきゃ、いけないのに……」
「何言ってるんデスかそんなの後回しですヨ!? 寒くないデスか!?」
「えぇ……」
「おねえちゃん……!」
「だい、じょうぶ……大丈夫、ですから……」
「ミーティア先輩、何か欲しいものありますか? 何でも言ってください」
 
ピリナの問いに、ミーティアは力なく首を振り、そして答えた。
 
「ごめん、なさい……。しばらく、カルリと二人っきりに……してください……」
「ミーティアサマ……?」
「お願い、します……」
 
顔を向け、自分を見つめるミーティアの表情を見て、カルリは気づいた。
何故二人きりになろうとしているか。
カルリは無言でピリナとラティベルを見やる。
 
「……ラティベルちゃん、あたし達でちょっと聞き込みに行こう? この寮に住んでる人達から情報を集めるの」
「で、でも……」
「大丈夫だよ。ミーティア先輩も、カルリも。……ね?」
「……わかった……」
 
ピリナはカルリに頷いてみせる。
ラティベルのことは自分に任せろという意思表示。
カルリも同じように頷くと、二人は部屋を静かに出て行く。
二人が部屋を出て行ったのを確認してから、カルリはミーティアをじっと見つめた。
ミーティアは何も話さない。
それは何故か、カルリはわかっていた。
 
「……あの時鍵屋さんで」
 
カルリが話し始め、ミーティアの瞳の光が揺らぐ。
 
「おばあさんが尻尾のことを話した後から……ミーティア様はとても動揺されていました」
 
何も話さない。
ただ只管、じっとカルリの顔を見つめるミーティア。
 
「ミーティア様……誰が犯人か、わかってしまったんですネ?」
「………………」
「そしてそれは……アタシにもわかってます。確信してます。……聞いてくれますか、ミーティア様?」
「……はい……」
 
ゆっくりとミーティアは頷いた。
深く呼吸をして、カルリは話し始める。
 
「まずは、七ヶ月前の鍵紛失からお話します。この犯行の目的はあの時アタシが言った通り、合鍵の作製のためでした。もうこの時に、きっとこの窃盗事件を起こすつもりだったんですね、犯人は」
 
一呼吸置き、続ける。
 
「ではどのようにして鍵を奪ったのか。あの真面目な教師であるスフィン先生が居る間は、絶対に手出しができません。スフィン先生が鍵に意識を向けられる状態だったら、の話ですけど。……犯人は薬を使ったんですよ。強い効果の睡眠薬を」
 
――ふぁ……と、ごめんよ。どうしてもお昼ご飯の後は……眠いね。
――はは、僕もですよ。……あ、コーヒーあるじゃないですか。淹れますよ。
――ん、あぁ。ありがとう。
 
「スフィン先生は眠気が逆に増して、自分でも気づかない内に眠りに落ちていた。……そして起こされたときも十分ほど意識が朦朧としていた。薬で無理矢理眠らされたんです、頭が働かないのも頷けます」
 
――先生? 先生!
――ん……?
――講義あるんですから、居眠りしちゃだめでしょう先生! 先生!
――ん……あ……ぁ……。
――スフィン先生! ……クク……。
 
「こうしてスフィン先生を眠らせている間に犯人はまんまと寮の鍵束を手に入れました。そして、リグナスにあるあの鍵屋さんに鍵束を持ち込んだんです」
 
――この鍵全部の合鍵を作って欲しい。
――あらあら……こんなに……。
――時間は幾らかかってもいい。だが、急いでくれ。金はこれだけでいいな。
――えぇ、えぇ……。早速仕事に取り掛かりますね……。
 
「この寮の部屋全ての鍵……それ全ての合鍵を作るには相当な時間がかかります。勿論合鍵作成のためにオリジナルを預けているので、その間は管理人室から鍵はずっとなくなったままです。多分この事件が発覚したとき、スフィン先生はあの時アタシ達に話した状況を説明しているはずです。居眠りする前に何をしていたかをね。……でも、疑えるわけがありません。薬を飲まされたなんて本人が知らないからこそ、自分のミスだとあっさり認めているわけだし、変だとは思っていてもそれだけで済んでしまっていました。飲ませた犯人だって簡単にシラを切り通せます。世間話をずっとしていて、講義の時間が近づいたのでスフィン先生に挨拶してから教室に向かった、とでも言えば誰も疑う人なんて居ないでしょう。……こうして犯人は不明のまま、この事件は終わってしまいました」
 
――……申し訳ありません! 私の……私の責任です!
――君もまだここに来て日が浅い。……日ごろの講義の様子は色々な人から聞いて知っている。よく働いていると思うよ、私は。……だが。このようなミスを犯すほど……自分の体に鞭を打つことを立派だとは私は思わん。
――は、はい……!
――深く反省したまえ。今回の失敗は、到底見過ごせるものではない。
――すみませんでした……!!!
 
「鍵の完成には一月ほど掛かったんでしょうね。……合鍵を手に入れた今、もうオリジナルに用はありません」
 
――はい、確かに……全ての合鍵ですよ……。
――…………。
 
「犯人は盗んできた鍵束を捨てました。……良心か何だか知りませんけど、わざわざこの寮の前の花壇に」
 
――……あ!? せ、先生! スフィン先生ーっ!!!
――これは……!? か、鍵だ!!! 間違いない……この寮の鍵だぁっ!!!
 
「それからはある意味簡単です。狙った獲物をずっと監視して、行動パターンを把握しておく。そして、絶対に居ない時間を見つけ出す。鍵を使って部屋に入り、盗む」
 
――フンフ~ン……♪ やっぱりお母さんの手料理が一番よね~……♪ 週3に増やそっかなぁ、お家帰るの……。
――………………。
 
「鍵を閉めた理由……気づかれないと思ったんでしょうね。浅はかな考えです。女の子はそういうのにものすごく敏感なのに」
 
――……あれ? ……無い? ……やっぱり足りない!
 
「被害者が全員この13号館の住民である理由。これも簡単です。一番犯人にとって監視しやすい環境に居るから。それは何故か? ……犯人も同じ、13号館の住人だったからです」
 
――実は、かなり前になるんだけど……が……無くなってて……。
――先輩も……? 実は私も……。
――えぇ? あたしも実は……今年に入ってからなんだけどさ……。
――……なんかおかしいと思わない……? 知らないうちに誰かが……。
――まさかそんな……で、でもそう考えるしかないのかな……。
――……っ……。
 
「犯人は何時しか焦り、恐れました。何時か何かの拍子でばれてしまうかもしれないと。そうなれば、お終いです。……誰かに押し付けることを考えました。誰に? ……管理人のスフィン先生にです。恐らくこれを考えたのはミーティア様の部屋に盗みに入る前でしょう。だからこそ、ミーティア様の事件だけ今までとは違う、判りやすい犯行の痕を残したんです」
 
――皆さんおはようございます! 今日も一日がんばって行きましょう!
――……であるから、ここが……。……そう、そういうことです!
――はは、懐かしいなぁ……この傷、実は僕の同級生がつけちゃったものでね……。
 
「この事件も、それまでの事件も『あるはずの無い鍵が使われている』からこそ再現可能な状況から見てスフィン先生が一番怪しいのは間違いありませんでした。全ての部屋の鍵を持っており、誰にも怪しまれること無く涼しい顔で自由に歩きまわれる立場にいらっしゃるんですから、まず誰もがあの先生に注目するに決まってます。……アタシもかなり怪しんでましたから。きっと鍵屋さんであの情報が手に入らなかったら、アタシも本当の確信までは得られていなかったかもしれません」
 
――黒くて、毛先の尖った……。
 
「鍵束を手に入れるチャンスを作り出し、鍵屋に鍵束を持ち込んで、この盗みを繰り返した犯人。……今までの情報で外部の人間はまずありえない、ミーティア様もそう考えていたんですよね?」
「………………」
「ミーティア様が学長のところに行っている間、ピリナから聞きました。……ブラックウルフ系の尻尾だけが、あの鍵屋でおばあさんが話してくれたような形であることを。睡眠薬を簡単に手に入れられる『医者の息子』という立場で、ブラックウルフの尻尾を持つ……いや、現在のアカデミー全生徒の中で唯一ブラックウルフの血を引いている男」
 
――カルリ・ハーティポット。君がどんな人物かは知ってるつもりだ。堕落しきった性格、使わない実力。それは無能と変わらない。……アカデミーの恥晒しめ。
 
「……犯人はニューク・サグです、ミーティア様。貴女は鍵屋さんで彼が犯人だという事に気づき、そしてあの時広場でのスフィン先生や、アタシに対して酷い言い草だった彼を見て、本性をも知ってしまったんですね」
 
沈黙。
しばしの後に、光り輝く雫がミーティアの目元から現れ、そして頬を伝い始めた。
 
「……カルリ。とても素晴らしい、推理でした……」
「ありがとうございます、ミーティア様」
 
カルリはミーティアの手をしっかりと握り締めた。
 
「……ミーティア様、アタシはこのままアイツを逃すつもりはありません」
「……はい」
「でも、確実な証拠はありません。今までアタシ達が手に入れて来た証拠、っていうのは『形が無い』んです」
「では……」
「協力してくださいミーティア様。辛いのは判ります。……アタシも、本当はこんなこと頼みたくありません。でも……!」
 
カルリの心は申し訳なさで一杯だった。
幾ら醜い本性を持った男でも、ミーティアにとってはそれまで、生徒会で苦楽を共にしてきた仲間である事に違いは無い。
彼を捕まえてしまえば、その後彼がどうなるか。
それはミーティアも既に理解して居るに違いなかった。
そしてそれを悲しむであろう事もカルリには判り切っている。
 
「……!?」
 
ミーティアの手を握り返す力が一段と強くなった。
突然のことに驚いて、ミーティアの顔を見たカルリ。
ミーティアは悲しげな笑みを浮かべている。
 
「ミーティア様……」
 
そしてミーティアは、ゆっくりと頷いた。
 
【7】
スキュラーズ=スフィンが突然の休職となって二日目。
四月の十九日、月の日。
“神聖術学科第13学年1組”の教室で、ニュークは平静を装いながら心の中ではほくそ笑んでいた。
間違いなく、スキュラーズはもうこのアカデミーには戻ってこない。
永遠に汚名を被ったまま、自分の罪を肩代わりして消え去ってくれるのだ。
 
――……ふふ……。
 
懐に彼は視線を移す。
そこには白い小さな紙袋が一つ在り、彼はその中身を確認した。
幾つかの桃色の錠剤、そして粉末が入った薄い袋が多数その中にはある。
 
――楽しみだ……。ねぇ、ミーティア……。
 
誰にも見られないよう、窓の外を向き、不気味な笑みを浮かべる。
 
「……え? ミーティアさん、また?」
「そうなのよ。何でもまた酷い風邪をひいたらしくって……寝たきりらしいわ」
「あの子達が騒ぎ出すんじゃないの? えっとほら、カルリって子と、ミーティアさんの従姉妹の女の子」
「それがね、あの子達も風邪ひいてるのよ今回。凄く静かだそうよ」
「へぇ……あの子達でも風邪ひくんだ。意外ね……」 
「さ、お昼ごはん食べに行きましょ?」
 
――つまり僕の邪魔をする奴は居ない、ということか……。
 
耳に飛び込んできた、同学年の女生徒の会話。
ニュークはもう一度笑みを浮かべた。
 
――楽しみだ……本当に……今日の夜が楽しみだよ……。
 
ゆっくりと立ち上がり、彼は教室を出て行く。
 
「……よし、行った行った」
「これでよかったのかしら、えっと……ライリークさん?」
「えぇもうそりゃあばっちりですよ~。……はい、これはささやかなお礼です」
「まぁ……ケーキバイキングの無料チケット……!?」
「楽しんできてくださいね~♪」
 
頭を何度も下げる二人の女生徒に、にこにこと笑うピリナ。
そして、ニュークが去っていった方向に顔を向けて。
 
「後は夜を待つだけ、か」
 
誰にも聞こえないほどの小さな声で、呟いたのだった。
 
【8】
“東学生寮13号館”の廊下はひっそりと静まり返っていた。
もう殆どの生徒が眠りに着いているからもある。
だがスキュラーズという存在が居なくなったために、いつも以上にひっそりと、寂しげな雰囲気になっているのかもしれなかった。
既にランプは消えて、廊下は真っ暗だった。
その暗闇を滑るように行く一人の影。
影は階段を最後まで上りきり、南通路を迷わず突き進む。
突き当たりにある扉の前で、影は止まった。
懐から何かを取り出し、ゆっくりと鍵穴に差し込む。
同じようにゆっくりとまわし、小さくかちゃりと音が響いたのが耳に届くと、慎重に扉を開いた。
身体を滑り込ませる。
静かに扉を閉める。鍵を掛ける。
興奮して息が殺せないが、もうその行動に神経を尖らせる必要はなかった。
ベッドにある人型の盛り上がりが、闇に慣れてくるうちに浮かび上がってくる。
影は戸惑うことなくそれに飛び掛り――。
 
「っ!?」
 
一斉に部屋の明かりがついた。
影、ニュークは自分を見る三つの存在を慌てたように見ている。
 
「引っかかりましたね~。見事見事」
「やっぱりお前が犯人だったんだな!」
「いやー、カマ掛けたらホントに来ちゃいました。カルリおっどろきー☆」
「お、お前ら……!?」
 
カルリ、ピリナ、ラティベル。
カルリとピリナは勝ち誇ったような笑みを浮かべ、ラティベルは怒りの篭った視線を容赦なくぶつけている。
 
「ま、まさかあんな勢いよく……ククッ……枕、マクラですヨ? 適当にベッドに詰め込んだアレに凄い勢い……男はみんな狼だーとか言いますケド……ア、アハハ……アハハハハッ……!!!」
 
ニュークが飛び掛ったのは、沢山の枕だった。
人の形に見えるように、適当に布団の中に押し込められているそれ。
唖然とした表情で枕と自分達とを見るニュークの姿が滑稽で笑いがこらえきれないのか、暫くカルリは大笑いしていた。
 
「……プッ……クク……、残念でしたニューククン。……遊びの時間はお終いですヨ。ここからは懺悔の時間デス」
「言い逃れはできませんね~」
「い、いや僕は自分の部屋を間違えて……これだって自分の部屋の鍵――」
 
ニュークが鍵を取り出す。
その瞬間、鍵は粉々に砕け弾けた。
 
「……ンデ?」
 
一瞬にして近づき、鍵に向かって軽く腕を振るっただけ。
カルリがそうしただけで鍵は無残な姿を晒している。
ニュークを睨みつけるカルリ。
ニュークの表情に恐怖が刻み込まれた瞬間だった。
 
「アンタはミーティアサマを襲うためにここに来た。……それだけでこの手で100回殺してもいいぐらいですケド、更にアンタは――」
「スフィン先生に罪を擦り付けた。……そうだよね~?」
「……っ……!!!」
「言い逃れしてもいいですヨ? ことごとく潰してやりますけどネ? ……アンタ合鍵作ったときに、尻尾見られてんですヨ。アンタの持ってるその汚い黒い尻尾をネ」
 
ズボンの尻尾通しから見えている尻尾を睨みつけるカルリ。
ニュークは意味もなく自分の尻尾を隠す。
 
「ラッキーなことに今アカデミーに在学中の連中でブラックウルフ系ってアンタだけなんですよネ。特定が簡単で実によかったデス。……でも実はブッテキショーコってヤツが無くてですネ? だから、ちょっと罠に掛けようかと思ったんですヨ。……ホラアレです。『証拠が無いなら作ればいいジャナイ?』ってヤツですネ」
 
けらけらと、目の前の存在を徹底的に馬鹿にした嘲笑をカルリはあげる。
 
「アンタがミーティアサマを見る目つき……一発で危険だと思いましたヨ。アタシはそういう連中を見分けるのがすごく得意なんですネ。性欲に飢えた、汚らわしいオスを見分けるのがネ」
「お、お前ら……こんなことしてタダで……」
「そりゃこっちの台詞だド変態。タダで帰れると思ってんデス? ……よーく見なさいナ」
 
カルリはニュークの目の前から身体を動かす。
 
「なっ……!?」
「コレがワタクシカルリ流の『証拠の作り方』ですヨ。よーく覚えとけクソ犬」
 
ニュークは大きく目を見開き、言葉を失ってしまった。
其処にいたのは、ミーティアとブラキウムの二人だったのだから。 
カルリは仰々しいお辞儀をしてみせる。
 
「ご紹介しましょう。今夜の特別ゲスト、ブラキウム=スターレンテサマでございまーす♪」
「ぱちぱちぱち~」
「君の行動は全て見せてもらったよ。勿論娘も同じ物を見ている。……我が娘を手に掛けようなどと愚かなことを」
 
ブラキウムの静かな怒りは、とてつもない威圧感を伴った声となって現れていた。
ニュークは呆けた様な、情けない表情をその場の人間たちに晒していた。
そして暫くして、くつくつと小さく笑い始めてしまう。
 
「アリャ、イった?」
「かもね~」
「ふ、ふふはは……終わりだ何もかも……終わった……僕は終わったんだ……はは、はひゃはははは――」
 
再びカルリが手を軽く振るい、ニュークの身体に当たった。
それだけでニュークが真横に猛烈な勢いで吹っ飛び、入り口の扉のすぐ横の壁に思い切りぶち当たり派手な音を響かせる。
 
「いつまで乗っかってんデス。神聖なミーティアサマのベッドが汚れるんですよ駄犬」
「ぐ……うぇ……」
「君の部屋も朝には調べさせてもらう。そして君は今から自警団の手に引き渡される。今の派手な音が合図でね。今頃教師の誰かが呼びに行ってるだろう」
「ぼ、ぼく、は……あいして、いるのに……」
「ハ?」
 
壁にぶつかった衝撃で鼻血を垂らしつつ、ニュークは未練がましく何かを呟いている。
 
「かのじょ、を……愛して……ぼく、のもの、に」
「愛? ……アンタみたいなド変態が軽々しく使うんじゃないですヨ。汚れる。自分勝手で独りよがりなアンタみたいなのは愛とか言わない。気色悪いデス」
「お、まえだって……変わらない……ぼく、と……」
「……寝言は寝て言って欲しいですネ。お望みなら寝させたげますケド?」
 
ニュークの言葉は止まらない。
だんだんと、その声は大きくなっていく。
 
「おまえ……だって……おまえだって僕と……変わらない!!! 僕は知っているぞ……!!! 正義面しやがって……お前だって僕と一つも変わらない……! 彼女に纏わりついて……まるで呪いのように!!! お前だって自分勝手で独りよがりな愛でバカみたいに動いてるだけじゃないかっ!!!」
 
暫くの沈黙。
 
「……アタシの愛が自分勝手? 独りよがり? ……アハハ、面白いこといいますネ。アンタと同じ。アハハ」
 
唐突に沈黙を破ったのはあまりにもわざとらしい乾いた笑い。
 
「……カルリ? 落ち着――」
 
ピリナはその笑い方に嫌な予感を感じ、声を掛けようとするが、それはもう遅かったようだった。
 
「ふっざけんなクソ犬!!! アタシはねぇアンタみたいにアンタの都合だけで人をどうこうしようなんて思ったこと無いわよ!!!」
 
空気が震える。
あまりの迫力に、ニュークは咄嗟に身を縮こまらせてしまう。
カルリは地面に落ちた汚らわしい物を見るような冷酷な視線でニュークを射抜き、その身体に手をかけた。
 
「ひっ!?」
「アタシをアンタなんかと一緒に……するなっ!!!」 
 
片手で大の男を持ち上げ、思い切り床に叩きつける。
細身なはずのカルリの何処にそんな力があるのかと、一見しただけでは誰もがそう疑問に思う光景。
だがそれは、今この場に居る全員――魔術という存在と深く関わってきているこの世界の人間なら――がその答えを見つけることができる。
右手に集う力、それは紛れもなく『マナ』だった。
彼女は魔術を行使しているのだ。
 
「っ……!? ふ、ふひゃはははは」
 
苦悶の表情を浮かべるニューク。
だがすぐに、不気味な笑みを浮かべる。
そしてふらふらと立ち上がり、壁に寄りかかりながら言った。
 
「ほらムキになったぁ……ひゃは……!!! お前も同じなんだよ、僕と同じだ、全く同じ……!!! 彼女を独占したいんだ……だから僕もこんな目に遭わせる!!! 邪魔者をこうやって排除したいだけなんだろぉ!? ぁはあははははははっ!!!」
「っ……!!!」
 
明らかな怒りの色がカルリの表情に宿った。
 
「先輩!!!」
 
ラティベルの叫びも今のカルリには届かない。
怒りはすぐに、殺意へと変わる。
ピリナもいつもの呑気な表情が消え、いつかのときに見せた真面目な表情で訴えかける。
 
「ちょっとカルリ! もうそれ以上はだめ!!!」
「うっさい!!!」
 
カルリの右手に更に力が集う。
ニュークの命を奪うことなど容易い、誰もがそう思えるほどに強い危険な力が今、カルリに集まっていた。
それを見ても、笑い続けるニューク。
 
「馬鹿者が」
 
ブラキウムがカルリを止めるため、小声で何か詠唱を始める。
一気に緊迫した空気が膨れ上がり。
 
「っ!?」
 
まるで小さな風船が割れたような、乾いた音が部屋に響き渡った。
早足でニュークに近づき、彼の頬に思い切り平手を叩きつけた人物が居たのだ。
それは意外な人物で、恐らく誰もが予想し得なかった人物だった。
 
「……ミーティア、サマ……?」
 
目の前でミーティアが、ニュークの頬を思い切り叩いているその光景を見て、カルリは我に帰った。
誰もが信じられないといった表情で彼女を見ていた。
ニュークでさえも、驚きのあまり笑うことを止めて、ぼんやりとしている。
ミーティアは表情を悟られたくないのか、俯いたまま言った。
 
「……お父様、彼を……早く外に連れて行って下さい」
「ミーティア――」
「早く連れて行って下さい!!!」
 
ブラキウムの言葉を遮り、ミーティアは叫んだ。
誰かに暴力を振るう姿も、感情をここまで露わにして大声を上げるのも、今まで誰も、親であるブラキウムでさえも見たことのない光景だった。
ブラキウムは何度かカルリを見ていたが、やがて大またでニュークに近づくと、首根っこを掴んで部屋の外へ連れ出していく。
廊下からは生徒の小さな悲鳴や、ざわつきがあがり始めている。
 
「………………」
 
ミーティアは、カルリと向き合った。
不思議と彼女の瞳を見ていると、カルリは気持ちが落ち着く。
彼女を好いているからという要素も大きいのだろうが、それ以外にも何か、惹き付けるような何かを持った瞳。
カルリは、自分が感情に任せて何をしようとしていたのかをようやく認識した。
 
「ア、アタシ……とんでもないこと……」
「ごめんなさい。……私のほうが先に手を出してしまいました」
「……ヘ……?」
 
 悲しげな笑みを浮かべ、カルリに謝ったミーティア。
 そして。
 
「ミ、ミーティアサマッ!?」
「……ごめ……なさ……っ……!!!」
 
 ――子供のように泣きじゃくり始めた。
 
【9】
夜中の騒動が治まって、しばらくして。
静けさを取り戻しつつある『東学生寮13号館』。
ミーティアの部屋も勿論例外ではない。
 
「……落ち着きました、ミーティアサマ?」
「はい……。ごめんなさい……迷惑、かけて」
「な、何言ってるんデスか! カルリのほうが迷惑かけてますヨ!」
「ほんとだよ~。一時はどうなるかと思ったじゃない~」
「怒るのもわかるけど……先輩アレはやりすぎ!」
「ウ……わ、悪かったですヨ……」
「何にせよ、本当の犯人が捕まった、ということで良いのかね」
「そう考えていいと思いますヨ、学長センセ」
 
気分が乱れたときはお茶。
そういった理由で、深夜に始まったお茶会。
はちゃめちゃな行動をしでかそうとしたカルリを、ブラキウムはまだ複雑な表情で見ている。
 
「全く……魔術は喧嘩の道具ではない。君のその才能は素晴らしいものだが、もっと常識的な考えも身に着けねば生かし切れんぞ」
「アハハ……ゴメンデス」
「次は気をつけたまえ。……娘のことで世話になったこともあるし、それに……」
 
ブラキウムは薄く笑みを浮かべた。
 
「あの愚か者を君が私の代わりに手酷く痛めつけてくれたこともある。今回は不問とする。……感謝しよう、ハーティポット君」
 
ブラキウムは右手を差し出し、カルリもそれに快く応じ硬い握手が交わされた。
それを見ていたピリナは、目を丸くする。
 
「わ、カルリが学長先生に褒められた。今度こそ明日は雪!」
「だーからそんな珍しい能力はありませんって。カルリだって真面目にやればこう、ホラ、できる子なんですヨ!?」
「やればできる子は別名何時までもやらない子っていいま~す」
「ウ……」
「こつこつ頑張るのが大事なんだよ、先輩?」
「ウ、ウッサイですネ助手。アタシはこつこつ努力が苦手なんデス!」
「ラティベルちゃんの言う通りだよね~。全く先輩の癖して後輩に物を教わってどうするの?」
「グ……」
「へへーん。先輩もボクを見習う事だよ!」
「……ウ、ウッサイ……」
「ふふ……」
 
カルリ、ピリナ、ラティベルの三人の掛け合いを眺めていたミーティアが、目尻に溜まった涙を指先で拭い去りつつ、僅かにだが笑みを浮かべて見せた。
 
「あ、ミーティア先輩が笑った~」
「ホントだ! ちょっと元気が戻ってきたね、おねえちゃん!」
 
二人の言葉にカルリもミーティアに顔を向ける。
そして、笑みを浮かべた。
言葉を交わす必要は無かった。
 
「よしカルリ、もっとあたしたちにいじられろ~」
「チョ、何でそうなるんデス!?」
「カルリがいじられると面白い、面白いからミーティア先輩が笑う! 完璧。さぁいじられろ~」
「何いじるんデス」
「ラティベルちゃん!」
「え? ……ボク何も考えてないけど?」
「え~」
「別にアタシいじらなくても笑ってくれてますヨ、ミーティアサマは! ですよネ!?」
「えぇ……。カルリをからかわなくても、楽しいですから大丈夫ですよ。二人とも……」
「………………」
 
――何時の間にこんな、表情豊かな子になったのか。
 
親である自分に対しても、どこか遠慮して控えめな態度だったミーティアのことを思うと、今の彼女の姿はブラキウムにとって驚くべきものだった。
こんなに自然に、作らない笑みを浮かべている姿を見たのは初めてだったからだ。
 
――……くっ……い、何時か私だってこれぐらい表情豊かに喋って貰える様に……。
 
ブラキウムは四人の中心人物となっているカルリに、密かなライバル心を燃やすのであった。
 
【10】
蝙蝠の翼をはためかせ、空を飛ぶ。
空中で一回転、スピン、逆立ち。
思うが侭、自由自在に飛び回る。
朝日の中で飛ぶのも悪くない、カルリはそう思った。
事件の夜が明けて、四月二十日、太陽の日。
事件の影響でアカデミーは休講になっていた。
いざ休みと判ってしまうと変に目が冴えてしまう物で、似合わない早起きをしてしまったカルリは暇つぶしにこうして寮の周囲を飛び回っていた。
暫く飛んでいると、寮の入り口付近でピリナが手を振っているのが見えた。
 
「カルリー! おっはよー!」
「おはよーですヨー」
 
カルリはピリナの頭上でくるりと一回転して、華麗に地面に着地する。
早速ピリナはカルリを小突きながら話し始めた。
 
「聞いた聞いた~? なーんか、あの事件から発展してすごいことになってるんだよ!」
「へー?」
「もう朝から大騒ぎ。会長の両親のほうも叩けば埃が出るような人だったらしいのね。で、会長が隠し持ってた薬がすっごいやばいヤツで……」
「ヘェ。そりゃまた、面白い所まで発展しましたネ」
「……なんかあんまり興味無さそうだね」
「もうあの事件はアタシにとってどーでもいいんですヨ。ミーティアサマの身の安全は守られたし、今まで以上に仲良くなれたし、しかもお父サマにアピールまで……フフフ。あのド変態もザマーミロですヨ」
「相変らずだなぁ」
 
ニヤニヤと笑うカルリ。
そんな彼女の姿を、ピリナは呆れたような顔で眺めていた。
 
「ねぇカルリ?」
「ン?」
 
しかし、突然真面目な顔になって、カルリに声をかける。
 
「一個だけわかんない事があるんだ」
「何デス」
「どうして会長にあんな情報流したら、本当に来るって思ったの?」
 
あの時情報を流したとき、ピリナは半信半疑だった。
カルリにただそうしてほしいと頼まれ行っただけで、本当にくるのかどうか、確信は一つも持っていなかったのだった。
だが、ニュークはその日の深夜にやってきた。カルリの予想通りにだ。
その予想がどうしてできたのか、ピリナにはわからなかった。
カルリは悪戯っぽく笑ってみせる。
 
「ミーティアサマの事件」
「え?」
「何で今までと違っていたか、判りますかネ?」
「それは、スフィン先生に罪を押し付けやすいようにわざと……」
「そう。それが一つ目の理由。……実はもう一個あるんですヨ、ピリナ」
「もう一個?」
「どーせあの変態の両親についても色々掴んできたんデショ? お得意の情報収集でさ」
「うん。まぁ、細かいトコは省くとして……非合法の薬品を扱う親玉だったみたいだね。ただ、危険が迫ってるのを知って近いうち高飛びする予定だったみたい」
「やーっぱりそんなことだろーと思いましたヨ。二つの意味で『最後の事件』にするつもりだったんですヨ、あのクソ犬」
「二つの……一つ目はスフィン先生に押し付けてしまうこと、だよね。二つ目は……って、まさかカルリ」
「そ。アイツははじめっからミーティアサマを襲うつもりだったんですヨ。高飛びして近々ここを去ることになるんなら、もうミーティアサマには会えない、だから薬まで隠し持って、恐らくは抵抗もできない、助けも呼べない状態に陥れて、じっくりとミーティアサマを辱める……そんなシナリオだったんじゃないかとアタシは予想してますケド」
「うわぁ……ホントにそうなら救いようが無いよね~……。あながち間違って無さそうに聞こえるし……」
「アタシ達が、真犯人を知っているかどうかをアイツが知っていたかは知りませんが、ミーティアサマを襲うのに間違いなく障害になるのはこのアタシと助手の二人デス。どちらもミーティアサマに一番近い場所によく居るし。アタシがミーティアサマの部屋に寝泊りしているのももしかすると知っていたかもしれない。スフィン先生の騒ぎがあった後もミーティアサマの部屋に滞在しているかもしれない。それを思っている限りはアイツは来ないと思いましたから、アンタに頼んで偽の情報を流してもらったんですヨ。……ま、そう思っていなくてもほぼ毎日ミーティアサマの部屋に訪れてる二人が風邪ひいて寝込んだっていうのはアイツにとってチャンスだったと思いますヨ」
「わりとあの寮、中で何やってるかわかんないもんね。今回の会長の件だって、部屋に色々隠し持ってたのがやっと判ったぐらいだし」
「やろうと思えば一日二日ぐらいは部屋の中に監禁してずっと陵辱なんてのも可能だと思いますヨ?」
「……わりと洒落にならないから、真顔で言うのよそうよカルリ」
「すみませんネ」
 
ぺろりと舌を出して笑うカルリを見て、ピリナはある事を言おうか悩んでいた。
あの時、ニュークの発言で激昂したカルリの姿が脳内にフラッシュバックする。
 
――アタシはねぇアンタみたいにアンタの都合だけで人をどうこうしようなんて思ったこと無いわよ!!!
 
今はなんでもないように振舞っているが、内心傷ついているのかもしれない。
そう思うとやはり、言っておいたほうがいいとピリナは自分の中で自問自答を終わらせて、口を開いた。
 
「ねぇカルリ」
「ン?」
「アイツが言ってたこと、気にしなくていいよ。カルリとアイツが同じだなんてあたし、思わないもん。ミーティア先輩だって、そんなこと絶対思ってないよ」
「………………」
 
二、三度翼をはためかせて、カルリはそれを返事とする。
続けて、という意味だとピリナは汲み取り、軽く頷いた。
 
「……正直言うとね、ミーティア先輩の部屋にカルリが泊まってるって聞いたとき、あたし心配だったんだ」
「それはどういう意味デス?」
「カルリがミーティア先輩襲うと思った」
「……ピリナ」
「あはは~。ごめんね、謝る。あたしの親友はそんなことしてなかった! でもね、言い訳するとね? カルリは女の子が大好きで、一番お気に入りなのはミーティア先輩っていうのは皆知ってる。だから、この事件をチャンスにして、ってあたし思ったんだよね。……でも違った。一番近い場所にいるラティベルちゃん以上に、カルリはミーティア先輩のことをわかってて……。すごいな、って素直に思ったよあたし」
「……いや。感動してる所悪いんですけどネ、ピリナ。アンタのその予想、図星デス」
「えっ!?」
 
カルリは苦笑しつつ、照れ隠しに頬を掻きながら話を続けた。
 
「最初は確かに、この事件がチャンスだと思ってミーティアサマに急接近、って考えてましたヨ」
「あっちゃあ。やっぱカルリだ~」
「ソ。アタシは何時も通りのカルリですヨ。……ケド」
「けど?」
「苦しんでるミーティアサマを見てアタシは気づいたんデス。形は違えど、アタシがやろうとしていることは、ミーティアサマを恐怖に陥れたヤツ……あのド変態と全く同じだってネ。アタシだけが満足するだけ。ミーティアサマはどうなります? 苦しくて辛いだけデス」
 
話すカルリの口調は何時も通り、どこかお調子者ぶったそれだった。
しかし表情は、真面目そのもの。
 
「………………」
「一方通行の愛なんて、アタシにはもう魅力的には映らないんデス。アタシも笑って、ミーティアサマも笑って……そんな愛を目指そうって心入れ替えることにしました」
「……えらいっ!」 
 
カルリの言葉にピリナはいたく感動したらしい。
きらきらと瞳を輝かせ、ぱちぱちと拍手をしてみせる。
 
「偉いよカルリ~! 親友としてもう嬉しくてたまらないよ! 今ならキスしても許す!」
「よくわかんないデスがしない」
「うん、やっぱりしてもらっても困るから無しね~」
「ったく、適当に話してますネアンタ? ……ピリナ」
「ん?」
 
カルリは突然右手を差し出した。
ピリナはきょとんとした顔で、カルリの顔と、右手を交互に何度も見る。
 
「協力してくれて、助かりましたヨ。……ありがとう」
「……なんだ、そんなこと~? あったりまえでしょ、カルリはあたしの大親友! 手伝わなきゃウソでしょ~。……どういたしまして!」
 
硬い握手が交わされる。
変わらぬ友情を再確認して、二人は笑みを浮かべていた。
手を解き、カルリは早速何かを思いついたらしく小さく声を上げた。 
 
「じゃあミーティアサマのお部屋にお目覚めのキッスでもしにいきますかネ! きっとお待ちしてますヨ!」
「それ一方通行の愛じゃないの!?」
「いやいやいや、それは違いますヨ、ピリナ。目覚めて暫くはぼうっとしてますからどさくさに紛れて」
「あぁわかった犯罪だ!?」
「愛だって言ってんですヨ!?」
「どこがよ!?」
「このカルリ・ハーティポットの行動全てデス! ……あっ!? 何しがみついてんデスかアタシは今からミーティアサマのお部屋に!!!」
「ぜーったい行かせない! 親友として止めるよ! 犯罪を犯すのをみすみす見逃せるわけないもん!」
「だから犯罪じゃないって言ってるでしょうがっ!? 離せコラ離すんですヨっ!!!」
「いやだー! 変態とか百合とかレズとかいう犯罪者レッテル貼られてるカルリはいいけどホンモノの犯罪者になったカルリは見たくないー!」
「なんデスってこの――」
「ごめんなさい。もう起きてしまいました」
 
二人の言い合いは、突然掛けられた二人のよく知る人物の声によって止まる。
 
「ミ、ミーティアサマ!?」
「おはようございます、カルリ。ピリナさん」
 
身だしなみもすっかり整えて其処にいたのはミーティアだった。
先ほどの会話を聞いていたのかどうかはわからないが、柔らかな笑みを浮かべている。
事件のショックも随分と癒えたらしい。
もしくはそう見えるよう振舞っているのかもしれない。
だが無理をしている様子は見受けられず、カルリは驚きつつも安堵していた。
 
「お、おはようございますミーティア先輩~」
「ボクもいるよ!」
 
更にミーティアの後ろからひょっこり現れたラティベル。
 
「あ、助手。オハヨ」
「おはようラティベルちゃん~。よく眠れた?」
「うん! ……でもなかなか興奮で寝付けなかったよ!」
「あはは、ラティベルちゃんらしいや~」
 
気づけばまたいつものメンバーが揃ってしまっている。
カルリは大きく伸びをして見せてから、言った。
 
「……しかしこうも朝から四人揃うとは、また何か起こりそうな予感ですヨ」
「気楽な事件にしてよ~。あんなのはもうこりごり~」
「アタシだってそうですヨ! もうあんな事件が起こらないよう、ミーティアサマに悪い虫がつかないようにこのカルリ・ハーティポットが力を尽くして――」
「おーい! 君達ーっ!!!」
 
朝から騒がしく会話をしていたカルリ達だが、聞き覚えのある声に全員がその声の方向を向いた。
そして、全員が笑みを浮かべる。
 
「スフィン先生っ!」
 
手を振り、走ってくるのはスキュラーズだった。
やがてカルリ達の所に辿りつき、荒れた呼吸を整え始める。
 
「はぁ……はぁ……。あぁ、疲れた。入り口からここまでは結構な距離だね」
「戻ってきたんですネ、センセ」
「あぁ! ……話は聞かせてもらったよ。君達がいなかったら僕は今頃……。本当に、本当にありがとう!」
「いや~、これで一件落着だね」
「うん! めでたしめでたし!」
 
再会を喜び合うスキュラーズとカルリ、ピリナ、ラティベルの4人。
しかしミーティアだけは、その様子をぼうっと眺めていた。
それに気づいたカルリは、首を傾げる。
 
「ミーティアサマ?」
「あ、いえ。……ふふ、まだ終わっていないでしょう?」
「え?」
「まだ何かあったっけ~?」
「よく思い出してみてください。今日はスフィン先生にとって特別な日……」
「特別……?」
 
――……プロポーズ、するんだ。今週の太陽の日に。
 
カルリ達の脳裏に、小さな小箱を撫で回し、恥ずかしそうに言っていたスキュラーズの姿が蘇る。
 
「……あぁ~!」
「プロポーズだ!」
「え?」
「え? じゃないですヨ、センセ。バッチリおしゃれしてキメなきゃダメですヨ?」
「お、覚えててくれたんだ君達!?」
「とても素敵な日になるかもしれないですからね」
「ねぇねぇ何時するの!? 場所は!?」
「告白に使った言葉を新聞の見出しに使っていいですか先生~!」
「キスはやっぱりふかーくやらないとダメですヨ!」
 
騒ぎ始める三人に、それを嬉しそうに眺めるミーティア。
 
「え、あ……ははっ……」
 
暫くは戸惑いの表情だったスキュラーズも、屈託の無い笑みを浮かべて見せたのだった。 
 
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