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適当に書き散らしたものを纏めてます。

   
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最初の事件・・・名?探偵カルリ誕生!(前編・2)
 【6】
「……というワケで、暫くミーティアセンパイのトコにお泊りしますから」

 「……そう」
 
椅子に座り、テーブルを挟んで向かい合う二人。
カルリの目の前に居る妙齢の女性は、カルリによく似ていた。
健康的に焼けている小麦色の肌に、髪質や色はカルリそのままのロングヘア。
彼女はカルリの姉、コリル=ハーティポットだった。
露出度の高い挑発的なカルリの格好とは対照的で、彼女は落ち着いた色合いのエプロンドレスを身に纏っている。
それはまるでお互いの性格の違いをはっきりと表しているようでもあった。
 
「………………」
 
気まずい沈黙。
コリルは無表情で、テーブルの上で組んでいる自分の手をじっと眺めている。 
 
「……じゃ」
 
しばらく私服の位置を微調整する振りをしていたカルリだが、一向に姉が口を開かない故に生まれる沈黙に耐え切れなくなるのにそう時間は必要なかった。

「そういうコトで」

纏めた荷物を手に家を後にしようとする。
だが。
 
「……別にそんなこと言いに帰ってこなくても、いいのに」
 
というコリルの言葉が、カルリの背中に突き刺さった。
カルリの頭にかっと血が上り、顔が紅潮する。
 
「っ……! アタシだって別にアンタに言いたくて来たワケじゃないんですヨ!」
 
振り向き大声でコリルに怒鳴ると、カルリはロングブーツを五月蝿く床に叩きつけながら古びた入り口の扉の前まで行き、それを乱暴に開いた。
 
「フンッ」
 
加減などせず思い切り扉を閉めたようでばたんと些か大きな鈍い音が響き。
続いて翼が乱暴に風を切る音がコリルの耳に届いた。
 
「………………」
 
コリルは組んだ手に力を込め、唇をきゅっと真一文字に結ぶ。
その表情は今にも泣き出しそうな、悲しげなものだった。
 
【7】
「あ、先輩!」
「おかえりなさい、カルリ」
「ただいまですヨ」
 
ミーティアの部屋に戻ったとき、そこには既にラティベルの姿があった。
二人とも私服に着替えており、いつものようにお茶会を楽しんでいたらしい。
手帳に書きかけの所で顔を上げ笑顔を見せていたということは、お茶会を楽しみつつもしっかりミーティアから情報を聞き出していたのだろう。
そう推理して、カルリは満足げな笑みを浮かべて二、三度頷いた。
 
「早速書いてますネ。関心関心」
「ボクが居ない間にわかった情報を教えてもらってたんだよ!」
「一通り、私が気づいたことも含めてラティベルに教えておきましたよ」
「ン、さっすがミーティアサマですネ」
 
目を閉じて頷き、後ろ手に扉を閉める。
顔をあげ二人を見たとき、何故か奇妙な表情で自分を見ていることにカルリは気づく。
 
「……? どしたんデス、二人とも」
「あ、いえ。なんだか……」
「いつもの先輩らしくないなーって」
「ヘ? いつものアタシらしく?」
「うん。上手くはいえないけど……」
 
態度にも表情にも出していないつもりだったのだが、二人から見れば不自然だったらしい。
つい十数分前に不愉快な気分を味わってきたばかりとは答えるわけにも行かず、カルリは笑ってごまかすことにした。
 
「何言ってるんデスか、ちょっとお出かけしたぐらいでコロっと性格が変わるわけないですヨ。……ところでミーティアサマが気づいたことも教えたって仰いましたよネ?」
「えぇ。一つ管理人室に行った時に思い出したことがあったので」
「それは一体?」
 
空いている椅子の脇に持ってきた荷物を置き、座りながらカルリは聞く。
紅茶を一口味わってから、ミーティアは話し始めた。
 
「管理人室には、この寮の全部の部屋の鍵があるんです。何らかの事情で鍵が使えない場合は、管理人であるスフィン先生がその鍵を使われるんです」
「フム。……何らかの事情っていうのは大体予想できますケド」
「えぇ。多くの場合は生徒が鍵を紛失してしまった場合です。中で身動きが取れなくなってしまった生徒を助けるために、なんてことも昔ありましたけれど」
「ナルホド。……ってコトは謎が一気に解けませんかミーティアサマ?」
「……一つの可能性としては、です。本当にそうかはわかりませんよ」
「でもかなり高い可能性、ですよネ? ……ミーティアサマの物でないこの部屋の鍵を持ってるのはスフィンセンセーデス」
「確かにそうですけど……」
 
眉を潜め、考え込むミーティア。
その仕草には明らかな戸惑いの色が見えた。
 
「オトコって誠実に見えても実際はわかんないモノですヨ」
「でも……スフィン先生が犯人だなんて思えません、私には」
「ボクもスフィン先生が犯人には思えないなぁ。すっごく優しい先生なんだよ。手作りのお菓子を寮の皆に分けに来てくれたりもするし」
「アンタは食い物でコロっと騙されるタイプですネ」
「む。失礼しちゃうな! 先輩はスフィン先生をよく知らないからそんなこと言えるんだよ!」
 
怒るラティベルを適当になだめつつ、カルリは話を続ける。
 
「……まぁ、ここでこの事を話し合っても仕方ないデス。最も重要なのは証拠ですからネ。それが手に入らないことには誰が犯人か、なんて言えません。スフィンセンセーも可能性が高い、というだけでカルリもまだ犯人と決め付けたわけじゃないデス」
「絶対スフィン先生じゃないよ!」
「あー、ワカリマシタって。とりあえず明日からはあのセンセーの情報集めデス。あと他に鍵を手に入れる手段がないかも引き続き探りましょう。今日の調査は終了デス」
「お疲れ様でした、二人とも」
「だからもう後はのんびりお茶を楽しんで、ミーティアサマと一緒にお休みするだけですネ」
「え!? 先輩なんでおねえちゃんと一緒に寝るの!?」
「お泊りするんですヨ。……許可はちゃーんと貰いましたからネ」
「えー!? 先輩だけずるい!」
「また何時来るかわかんない犯人からミーティアサマを守るためデス。遊びじゃないんですヨ」
 
もっともらしい事を言ってのけるが、ミーティアの傍に居たいという下心が顔をのぞかせているのもまた事実だったりするカルリ。
ミーティアを守るためというのも本当ではあるのだが、ラティベルはどうにも納得が行かない様子だった。
 
「……ボクも泊まりたい!」
「アンタ此処の五階に住んでるじゃないデスか! 自分の部屋で寝るんですヨ!」
「う~……。おねえちゃん!?」
「……ラティベル、私のベッドは三人も寝られるように見えます?」
「そ、そうだけど……」
 
寝台を見やるラティベル。
それは三人寝るには無理がある大きさだった。
それでもまだ、諦めきれないといった様子の表情で居るラティベルを見て、ミーティアは言った。
 
「そうだ、今週の末は一緒にお家に帰りましょう? そうしたら一緒にお休みできますよね?」
「ほんと!?」
「えぇ、約束します」
「わかった! 約束だよ!」
 
ミーティアとの約束を取り付けたことで、すっかりご機嫌を直してしまったラティベル。
満面の笑みをミーティアに向け、そしてミーティアもそれに答えるように笑みを浮かべる。
 
――あぁ、よかったデス。助手が居るとミーティアサマとのラブラブタイムが台無しでしたヨ……。
 
二人を眺めつつ、心の中でカルリは安堵のため息をついていた。
それと同時にラティベルに対しての羨望感も湧き上がっていた。
ミーティアとラティベル、この二人は従姉妹の関係なのだ。
ミーティアの父親はスターレンテ家の当主であり、このアカデミーの学長であるブラキウム=スターレンテ。
ラティベルの父親はブラキウムの弟で、このアカデミーの理事長レフィツァー=スターレンテだった。
今回の事件がある意味チャンスでカルリはミーティアの部屋に泊まることができたが、ラティベルは何も考えなくともある程度自由にミーティアと一緒に過ごせる。
生まれに対して文句を言えるわけがないことがカルリもわかっているので、その羨望が嫉妬に変わることはない。
だがやはり、羨ましいことに変わりはなかった。
 
「……あ、おねえちゃん大丈夫? もう眠い?」
 
ラティベルの声にカルリの意識はミーティアのほうへ向けられる。
手で口を覆って控えめに欠伸をしている姿がそこにあった。
人差し指で目尻に湧き出た雫を拭うミーティア。
 
「すみません……。今日はあまり眠れていなくて。ちょっと早いですけどお開きでいいですか、ラティベル?」
「うん。それじゃあ、そろそろボクは部屋に戻るね。おねえちゃん、先輩、おやすみなさい!」
「はい、おやすみなさい。ぐっすり眠ってくださいね」
「うん! ……先輩?」
「……カルリ?」
「……ハヒッ? アッ、うんおやすみなさい助手~、また明日ですヨ~」
 
欠伸の動作にすっかり見惚れていたカルリ。
素っ頓狂な声を上げ慌てて挨拶をする彼女を見て、二人はまた首をかしげた。
 
「やっぱり先輩、今日どっか変だよ!」
「変とはなんデスか変とは。カルリは何時も通りデス!」
「色々考えて、きっと眠いんでしょう。明日に備えて早めに寝ましょう?」
「わかりましたミーティアサマ!」
「……じゃ、ボクは帰るね。バイバイ!」
 
軽く手を振り二人に挨拶すると、ラティベルはミーティアの部屋を後にした。
 
「……それじゃあ、食器を片付けてますから、カルリは先にお風呂に入ってください」
「いいんデスか?」
「えぇ。髪が長いので時間が掛かるんです、私」
 
柔らかで艶のあるミーティアの銀色の髪。
頭の後ろで束ねられたそれは相当な量があることを窺わせる。
日ごろから長い時間を掛け手入れしているということに、カルリは納得し、また感心していた。
自分はといえば、手早く洗うためにかなり乱暴にしている。
 
――この機会にどうやって髪の毛洗ってるのか聞いてみようカナ……。
 
そんなことを思いつつ、カルリは頷いた。
 
「ナルホド……。それじゃあ、カルリが先に入りますデス」
「少し遅めになりますけど、私のお風呂が済んでから何か作りましょう。お腹空いてるでしょう?」
「カ、カルリにも作ってくれるんデスか!?」
「それは勿論。だってカルリは今、私の大切なお客様ですから」
「か、感激デス……」
「急がなくていいですから、しっかり体を温めてくださいね」
「ハイ!」
 
食器を片付けるミーティアを横目に、持ってきた荷物から寝巻きである、薄桃色のシルクパジャマを取り出すカルリ。 
それを持ってお風呂へと向かう。
その途中、小さなキッチンに食器を置き、青いオーブに手を触れているミーティアの姿を見る。
ミーティアがオーブに手を触れた瞬間、それは淡く輝き、緩やかな水流が現れ食器に降り注いだ。
このディアメルの世界に住む人々なら見慣れている光景だ。
カルリはお風呂へと続く扉を開き、人一人が入れるぐらいの小さな脱衣所に入る。
お茶会を楽しんでいた部屋や、先ほどのキッチンと同じく、ここも綺麗に掃除されていた。
 
――……やっぱりミーティアサマは、凄い人デス……。
 
普段人の目に付かないところであっても、恥ずかしくない程度にまで手を行き届かせる。
そんなミーティアの性格、人柄にカルリは心底惚れ込んでいた。
同性にしか興味が無いカルリだが、もしミーティアが男性だったとしても間違いなく惚れていただろうとさえ思う。
そして、この部屋の主であるに相応しい人物だ、とも思った。
寮生に用意されたにしては豪華な部屋。
此処は第13学年成績優秀者に与えられている、2階から7階の各階に一つだけ設けられた特別な部屋だった。
 
――ボクの部屋は結構窮屈だよ。こんなに広くないし……。脱衣所なんて無いもん。
 
過去にラティベルがぼやいていたのをふと思い出す。
 
――比較に一回寄ってみようカナ。どんな感じなのか興味湧いてきましたヨ。
 
ついでにあの元気の塊のような後輩をからかいにも、などとも思いカルリはくすりと笑う。
そして衣服に手をかけ、一糸纏わぬ姿になって風呂場への扉を開いた。
石造りの狭い一室。
椅子が一つ、小物入れに入った石鹸が幾つか。
そして紫色のオーブが壁にはめ込まれている。
たったそれだけの小さな部屋。
カルリは扉をしっかりと閉め、オーブに手を触れた。
先ほどキッチンで見たオーブのように淡く輝き、カルリの頭上からぬるま湯の雨が優しく降り注ぐ。
湯の温度は自らの意思で自在に調節できる。
適度な温度にしたところで、カルリは椅子に腰掛け、瞳を閉じて温かな雨が全身をしっかりと濡らすのを待った。
 
【8】
「平気ですか、カルリ?」
「大丈夫ですヨ。ミーティアサマこそ平気デスか?」
「えぇ。……やっぱりラティベルを泊めなくて正解でした」
 
そして就寝の時間。
二人潜り込んだ寝台はやはり狭かった。
体を横にして向き合い喋る。
 
「三人だと間違いなく朝には一人ぐらい落ちてますネ」
「えぇ。……それに彼女、ちょっと寝相が悪いので」
「なんとなく予想つきますヨ。年中無休で動き回ってそうな元気の塊ですものネ」
「ふふ……確かに、そうですね。彼女には悪いですけど、ベッドの都合上泊めるのはカルリだけ、です」
 
面白そうに笑うミーティア。
髪を下ろし、白のシルクパジャマを着た姿の彼女を見るのは、カルリにとって初めてのことだった。
団子状に纏め切れずところどころ垂れ下がっていた後ろ髪、そして視界を邪魔しない程度に伸ばされた前髪を見て予想はできていたが、彼女の髪の毛はかなりウェーブが掛かる癖があるらしい。
すっかり乾き、寝台に横たわるロングウェーブが月光に照らされている様子を眺めるカルリ。
 
「……ねぇ、カルリ」
「ハイ?」
 
ミーティアの声に意識を引き戻される。
霞んだアイスブルーの瞳が自分の顔をじっと見つめている。
 
「お姉さんは……何も言ってなかったですか? 突然貴女を泊めることになって、少し心配で……」
 
カルリは少し考えるふりをして、答えた。
 
「……大丈夫ですヨ。二つ返事でしたからネ」
「そうですか……。今度、お礼させて頂きますね」
「別に、するほどの事じゃないですヨ?」
「ううん、そんなことないです。……私、『規則だから』って、一度は貴女を泊めることを拒みましたよね」
「……ハイ」
「本当は……居て欲しかったんです」
「……ヘ?」
「正直に言うと、怖いんです。今一人で居ることが。貴女の云うとおり、私の部屋にまた誰かが入ってくるかもしれない……。それを思うと」
「………………」
「だから……嬉しかったんです。スフィン先生に嘘をついてまで貴女を引き止めて本当に良かったと、今思っています。……カルリみたいに、場合によっては規則なんて破ってしまうって所は、見習うべきかもしれませんね」
「……ミーティアサマ」
「ありがとう。今日はぐっすり眠れそうです」
 
ありがとう。
ミーティアのその言葉を聴くだけで、カルリは大きな喜びを得ることができていた。
気取らない、自然な笑みをカルリは返す。
 
「カルリ、……いや、アタシは、ミーティアサマのお役に立てれば幸せです。……おやすみなさい」
「えぇ。……おやすみなさい」
 
体を仰向けにし、ゆっくりと瞳を閉じるミーティア。
カルリも彼女の行動に倣い、そして、恐る恐るミーティアの手を握ってみた。
すぐに握り返してくる感触がした。
そして数分もしないうちに、二人分の寝息が、部屋の中に静かに響き始める。
 
【9】
油の弾ける音が耳に届き、香ばしい匂いがカルリの鼻腔をくすぐった。
 
「……ン……」
 
まどろみから引き戻され、それと同時に眩いばかりの光が自分に降り注いでいることに気づき、カルリは思わず腕でその光を遮った。
その動作で眠気は随分と飛び、隣にはもうミーティアの姿が無い事に気づく。
 
「……ふぁ~……」
 
のそのそと起き上がり、出てくる欠伸を片手で隠しながら伸びをし、羽も一緒に広げる。
つま先から頭のてっぺんまで、なんともいえない気持ち良さが走り抜けた。
 
「……7時? 普段だったらまだ普通に寝てますヨ、アタシ……」
 
腰窓の上のところに掛けられた時計を見てみると、自分が起きる時刻より遥かに早いことがわかる。
何時もはぎりぎりまで睡眠を貪っているカルリだが、今は不思議と頭はすっきりして、そして二度寝する気分にはなれなかった。
ベッドから抜け出し、音と匂いの方向へ向かう。
 
「……っ!?」
「……あ、おはようございます。……カルリ?」
「イ、イエくしゃみが出そうで出なくてオキニナサラズ!」
 
 
ミーティアは朝食を作っていた。
窪んだ箇所に固定された赤いオーブから炎が立ち上り、フライパンを熱している。
既に脇の方に置かれているトレイの上には、クロワッサンが二つ乗せられた食器が二つ納まっている。
ミーティアは髪をまだ纏めておらず、腰の辺りまでウェーブ掛かった銀色が降りている。
白のシルクパジャマ、ふかふかの白のスリッパ、そしてパジャマの上に纏うピンクの花柄エプロン。
 
――パ、パジャマにエプロンとか……此処は天国? イエス天国……!!!
 
ミーティアにとっては何時もどおりの、カルリにとっては刺激の強すぎるらしい格好。
暫く悶えてわざとらしいくしゃみの声をあげてから、カルリはミーティアの傍に近づいてフライパンの中身を見た。
焼けていくベーコンの上に覆いかぶさる半熟の目玉焼きがそこにはある。
 
「ベーコンエッグですネ」
「後はクロワッサンとミルクです。……物足りないでしょうか?」
「十分ですヨ!」
「よかった。ミルクはどうします? 暖めましょうか?」
「ンー……じゃ、ホットでお願いします。パン運んでおきますヨ?」
「あ、お願いします。もうすぐできますからね」
「ミーティアサマの手料理……楽しみデス♪」
 
眠くて少し手を抜いた、とはミーティアの話だが、昨日の夕食だったきのこスパゲティの味はとてもそうは思えない美味な料理だったことをカルリは思い出していた。
自然と笑みがこぼれてしまう。
トレイをテーブルまで運び、二つの皿を設置する。
ふと窓の外を眺めれば、清々しい青空が広がっているのが見えた。
 
「………………」
 
こうして朝の空をじっくりと眺めるのは、初めてのことかもしれないとカルリは思った。
何時もは気にもかけないものが、今日はやけに美しく見える。
 
――ま、ミーティアサマには敵いませんけどネ。
 
ホットミルクの作成に取り掛かっているミーティアの後姿を眺め、カルリは満足そうな笑みを浮かべた。 
 
「カルリ、すみませんけど窓を開けておいて貰えますか?」 
「ア、ハ~イ」
 
空になったトレイを小脇に抱え、腰窓に近づく。
掛け金を外し、片手で別々に大きく窓を開いた瞬間、清々しい風が部屋の中に舞い込んできた。
 
【10】
「あ~……美味しかった……」
「よかった。お口に合ったみたいで」
「カルリはミーティアサマの作ってくれたものなら何でも大好物ですヨ!」
「ふふ……。ありがとうございます」
 
丁度良い温度に冷めたミルクを飲みながら、時間に追われることなく過ぎていく朝食。
時刻は8時30分。まだまだアカデミーの講義開始までには十分な時間があった。
 
「まだまだ時間はたっぷり……あ、そうだ。一応今日の調査目的を確認しておきますネ。ぼーっとするのもナンですし」
「えぇ、どうぞ」
「まず一つはスフィンセンセーについて情報集めデス。ミーティアサマも助手もあのセンセーが犯人とは思えないと言ってますけど念のためですネ」
「スフィン先生は騎士学科の先生だから校舎の場所が違って大変かもしれないですが……カルリ、任せてもいいですか?」
「お任せ下さい! バッチリ情報掴んできますネ! ……で、二つ目は鍵の入手手段デス。管理人室にある鍵以外にもまだ存在しているんじゃないか、というのを探ることが目的。……こっちは難しそうデス」
「とにかく調べてみることが大事ですね」
「何かいい情報が掴めると良いですケド……。頑張りますヨ」
「私もできる限り探してみようと思います。確か今日は、先生方の会議があるとかで全員お昼でお終いでしたね。昼食を学生ホールで済ませて、それからお買い物にでも行こうかと思うんですけど……カルリも来ます?」
「勿論行きますヨ! 助手も呼んだら来ますかネ?」
「朝行くときは必ずラティベルと一緒なので、その時話したらいいと思います」
「ン、完璧ですネ。……さ、そろそろ着替えて準備しておこうカナ。ごちそうさまでした!」
「良かったら脱衣所で着替えてください。その、女性同士であっても恥ずかしいでしょうから」
「ン? ……ア、ハイ! お言葉に甘えますネ」
 
――ミーティアサマだったら見られても恥ずかしくいや寧ろ嬉し……いやいや、やっぱりカルリがミーティアサマに裸を見せるときはミーティアサマも同じ条件であって……。
 
カルリはまたもや妙な想像をしながら、着替えを持って脱衣所へ向かっていく。
清々しい景色、風、美味な朝食、落ち着いた時間の流れ。
そのどれもがカルリの邪な心を綺麗に洗い流すには至らなかったらしい。
アカデミーの学生達の一日の始まりが、間近に迫っていた。
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